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文:小山 觀翁

歌舞伎・文楽同時解説放送システムのことを“イヤホンガイド”と言う。これを創業した朝日解説事業株式会社(久門郁夫社長)の登録名である。
昭和50年11月興行の歌舞伎座に発祥したこのシステムは、特定の電波のみ受信出来るタバコの箱ほどのトランジスタラジオとイヤホンを一組にして貸し出すもので、この機器を通じて流される解説を聴きながら、お芝居を鑑賞するという画期的な文化事業である。
しかし、これが始まった時に、借りてくれたお客さんは僅か7人(同社の記録)だったという。私も、初放送以来、解説を務めているが、7人とは知らなかった。初公開の1ケ月に、毎日すこしずつは増加したのか、私の知る限りでは毎日30人ほどは借りたと記憶している。でも微々たるものだ。それが26年後の現在では、年間約150万人、1ケ月平均10万余人(東京、大阪、福岡の合算)という成長を遂げた。
私は今月は東京の歌舞伎座で『菅原伝授手習鑑』の内、道明寺という大変難しい一幕の解説をし、福岡の博多座では『神霊矢口渡』という、これも難解至極なお芝居に付き合っている(録音だから可能な芸当である)。それを皆さんが争って借り手くれているのは有り難いことである。
NHKも最近では、このシステムに深い理解を示してくれるので、お手伝いに参上して折々は、イヤホンガイドに似たことをやっている。そこで私は、最近『元祖カブキ・キャスター』と名乗っている。もっともこれは登録していないから、今なら誰でも名乗ることが出来る(誰も名乗らないでしようナ...)
ところでこの拙文を依頼してきた友人は、大変遠大な企画を考えているようだ。私も遂に73歳を突破してしまったが、私のようにこの年齢になってもアクセク働いていることが良いかどうかは別として、齢を重ねながら何もしないのは勿体ないことだ。その友人は、死を恐れずに老後の人生を有意義に過ごせるユニークな方法を近々発表するのだそうで、私もこれは楽しみである。
最近私の周辺にも若い人達が多く集まって来る。その若者達にとって、私の多年の蒐集物はどうやら垂涎の的らしい。跡継ぎが格別居る訳ではないから、志のある人に引き継ぐ必要があるなア、とは最近考えているのだが、世上でよく言うのに『貰った本と貰った犬は可哀そう...』とある。無料のものは結局粗末に扱われるという意味らしい。だから私の蒐集物をいくら厚意だからとて、ただで譲ることが良いとは限らない。ここが難しいところだが、例えば、終戦直前の新橋演舞場の、触っただけで千切れそうな一枚刷りのプログラム...もうこの世におそらくこれ一枚しか無いのでは..?と思うのだが、多分無料で上げればそれだけの扱いしかして貰えまい(これは小生の近著『痛快! 歌舞伎学』=集英社インターナシヨナル発行=に写真版をのせている)。
それやこれやを考えて、いずれこのサイト内の『おすすめ商店街』を通じて、オークシヨンでもやってみようかな、と考えています。

『痛快!歌舞伎学』
小山 觀翁 著
オンライン書店"bk1"
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